「問い合わせは増えたのに、営業からは『質が低い』と言われる」。マーケティング担当者からよく聞く悩みです。件数を追う部門と、契約を追う部門の間には、見えないすれ違いが生まれやすくなります。この記事では、営業とマーケティングの連携(SMarketing。Sales〈営業〉とMarketing〈マーケティング〉を組み合わせた言葉で、両部門が同じ目標に向けて協力する取り組みのことです)がうまくいかない原因と、仕組みとして整える手順を整理します。
背景:件数を追う部門と契約を追う部門は、そもそも見ているものが違う
マーケティング担当者は、問い合わせ件数や資料ダウンロード数を評価の指標にすることが多いです。一方、営業担当者は成約件数や売上を指標にします。この評価の違いが、すれ違いの土台になります。
マーケティングが「問い合わせを100件獲得した」と報告しても、営業から見れば「そのうち商談になったのは5件だけ」という現実があります。両者は同じ会社の中で働いていますが、成果を測る物差しが違うため、同じ数字を見ても評価が変わります。
この構造は、中小企業でも大企業でも同じように起こります。むしろ人数の少ない中小企業ほど、マーケティングと営業が兼務(けんむ。一人が複数の役割を同時に担当することです)の場合が多く、部門間の対立が見えにくいまま放置されやすい面もあります。誰かがマーケティングの成果も営業の成果も一人で背負っていると、すれ違いよりも「自分の中で矛盾している」という感覚に近くなります。
私自身、沖縄県の外郭団体で総務部門に異動した際、HubSpot(顧客管理と情報発信を一つにまとめられるツールです)を導入して社内の顧客データを整備した経験があります。それまで問い合わせの情報は担当者ごとに散らばっていて、どの問い合わせがどう扱われたのかを追いかけるだけで時間がかかりました。データを一つの場所にまとめて初めて、獲得した問い合わせが実際にどう進んでいるのかが見える状態になりました。
原因1:「リードの定義」がすり合っていない
すれ違いの多くは、「リード(見込み客。将来お客様になってくれるかもしれない人や会社のことです)」という言葉の意味が、部門ごとに違うまま使われていることから起こります。
マーケティングにとっては、資料をダウンロードした人も、問い合わせフォームを送った人も、どちらも「リード」です。一方、営業にとっての「リード」は、予算があり、決裁権(けっさいけん。契約を最終的に決められる権限のことです)を持つ人からの、具体的な相談だけを指すことが多いです。
この違いをすり合わせずに件数だけを共有すると、マーケティングは「増えている」と喜び、営業は「使えるものが少ない」と感じます。どちらの感覚も、その部門の物差しでは正しいため、話し合っても「気合が足りない」「現場を分かっていない」という感情的な対立に発展しやすくなります。
BtoB(ビーツービー。会社が会社を相手に商品・サービスを販売する取引のことです)のマーケティングでは、この定義のズレを防ぐために、リードを段階分けする考え方が使われます。代表的なのが、マーケティングが情報発信で獲得した「MQL(エムキューエル。Marketing Qualified Leadの略で、マーケティング活動によって関心が高まったと判断できる見込み客のことです)」と、営業が実際に商談に進められると判断した「SQL(エスキューエル。Sales Qualified Leadの略で、営業が対応する価値があると判断した見込み客のことです)」という2段階です。
原因2:情報の受け渡しが一方通行になっている
もう一つの原因は、マーケティングから営業への情報の流れが、一方通行になっていることです。マーケティングは獲得した問い合わせを営業に渡した時点で、自分の仕事が終わったと考えがちです。
しかし営業からすると、渡された問い合わせの多くは、会社名も予算感も分からない状態です。引っ越し業者の見積もり依頼を想像してください。依頼主が「とにかく安く」と考えているのか、「多少高くても対応の丁寧さを重視」しているのかが分からないまま訪問すると、提案の的が外れやすくなります。BtoBの商談でも同じで、見込み客の関心の度合いが分からないまま連絡すると、的外れな提案になりやすくなります。
さらに問題なのは、営業が商談を進めた後の結果が、マーケティングに戻ってこないことです。「この問い合わせは成約した」「この問い合わせは予算が合わず流れた」という結果が共有されなければ、マーケティングはどの施策が実際の契約につながっているのかを把握できません。結果として、件数は増やせても、成約につながる施策への改善が進みません。
解決策:SMarketingを始めるための3つの手順
ここまでの原因を踏まえ、連携を仕組みとして整える手順を3つに分けて整理します。
- リードの定義を両部門で言葉に落とす:「MQL」「SQL」のような区分を、自社の状況に合わせて具体的な条件で決める。たとえば「料金ページを見た上で問い合わせフォームを送った人」をMQL、「予算と導入時期について具体的な回答があった人」をSQLとするなど、誰が見ても同じ判断ができる条件にする
- 受け渡しのルール(SLA)を決める:SLA(エスエルエー。Service Level Agreementの略で、部門間で「何を、いつまでに、どう対応するか」を決めた約束のことです)として、「マーケティングはSQLの条件を満たした問い合わせを24時間以内に営業へ渡す」「営業は渡された問い合わせに3営業日以内に接触する」のように、双方の役割を数字で決める
- 結果を戻す仕組みを作る:CRM(顧客管理システム)の案件ステージを使い、成約・失注の結果がマーケティング側でも見られる状態にする。月1回など、定例で両部門が同じ数字を見て振り返る場を設ける
この3つのうち、最初に着手しやすいのは1番目の「リードの定義を言葉にする」ことです。ツールの導入や新しい会議の設定より先に、まず「何をリードと呼ぶか」を紙に書いて両部門で確認するだけでも、すれ違いの多くは減ります。
定例の振り返りは「数字」から始める
定例の場を設けても、いきなり施策の良し悪しを議論すると、部門間の主張のぶつかり合いになりがちです。まずは「今月のMQL件数」「そのうちSQLになった件数」「そのうちの成約件数」という3つの数字を並べて確認するところから始めると、感情的な対立を避けやすくなります。数字が起点になれば、「なぜこの段階で減っているのか」という議論に自然に進みます。
実践するときの注意点
連携の仕組みを整える際、よくある失敗が2つあります。1つ目は、ルールを決めた直後から厳格に運用しようとすることです。最初に決めたSLAの数字が、実際の業務量に合わないことは珍しくありません。数字は仮の基準として決め、3ヶ月ほど運用してから見直す前提にしておくと、現場の反発を防げます。
2つ目は、片方の部門だけでルールを作ってしまうことです。マーケティング担当者だけでリードの定義を決めても、営業が納得しなければ形だけのルールになります。定義づくりの段階から、両部門の担当者が同じ場で話し合うことが欠かせません。
まとめ
営業とマーケティングの連携は、どちらかの部門が正しいかを決める話ではありません。要点を整理します。
| 課題 | 見直しの方向性 |
|---|---|
| 「質が低い」という感覚的な対立 | リードの定義を条件として言葉に落とす |
| 情報の受け渡しが一方通行 | SLAで役割と期限を数字で決める |
| 施策の改善が進まない | 成約・失注の結果をマーケティングに戻す仕組みを作る |
| 定例が主張のぶつかり合いになる | まず数字を並べて確認するところから始める |
| 記事内の専門用語 | 意味 |
|---|---|
| SMarketing | 営業とマーケティングが同じ目標に向けて協力する取り組み |
| リード(見込み客) | 将来お客様になってくれるかもしれない人や会社 |
| 決裁権 | 契約を最終的に決められる権限 |
| BtoB | 会社が会社を相手に商品・サービスを販売する取引 |
| MQL | マーケティング活動によって関心が高まったと判断できる見込み客 |
| SQL | 営業が対応する価値があると判断した見込み客 |
| SLA | 部門間で「何を、いつまでに、どう対応するか」を決めた約束 |
| CRM | 顧客情報や商談の進み具合を記録・管理する仕組み |
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