「担当者に聞かないと、あの問い合わせがどうなったか分からない」。中小企業の経営者からよく聞く悩みです。フォームからの問い合わせは増えても、その後の追客(ついきゃく。問い合わせをくれた相手に、その後も連絡を取り続けて契約につなげる営業活動のことです)が個人の記憶やメモ帳に頼ったままの会社は少なくありません。この記事では、CRM(顧客管理システム。顧客情報や商談の進み具合を記録・管理する仕組みのことです)を使って、追客の流れそのものを見直す手順を整理します。

背景:問い合わせ対応が「その場しのぎ」になりやすい理由

問い合わせフォームを設置しただけでは、追客は自動的にはうまくいきません。担当者は返信を送った後、次の問い合わせ対応に追われます。そのため、最初の返信より先のフォローが後回しになりがちです。

これは担当者の怠慢ではありません。多くの中小企業では、追客のやり方が個人の判断に任されています。ある担当者は3日後に電話をかけ、別の担当者は資料を送って終わりにします。ルールがないため、対応の質が担当者ごとにばらつきます。

さらに問題なのは、担当者が休んだり異動したりすると、その人が抱えていた見込み客(将来お客様になってくれるかもしれない人のことです)の状況が引き継がれないことです。メモやメールの中にしか記録が残っていないと、他の人が状況を把握するのに時間がかかります。結果として、連絡が止まったまま放置される案件が生まれます。

私自身、沖縄県の外郭団体でHubSpot(CRMの代表的なツールの一つです)を導入した経験があります。導入前は、誰がどの見込み客にいつ連絡したかが、担当者の頭の中にしかありませんでした。データを一つにまとめて初めて、対応が止まっている案件がどれだけあるかが見えるようになりました。

原因1:追客のタイミングが「感覚」で決められている

多くの会社では、追客のタイミングを担当者の感覚で決めています。「そろそろ連絡した方がいいかな」という判断は、忙しい時期には後回しにされます。決まったタイミングがなければ、優先度は目の前の業務に負けてしまいます。

この状態を防ぐには、問い合わせの種類ごとに、いつ・何回・どんな方法で連絡するかを先に決めておく必要があります。たとえば「初回返信は当日中」「3営業日後に電話で状況確認」「反応がなければ1週間後にメールで事例を送る」のように、具体的な日数と手段を決めます。

タイミングを決めたら、CRMの機能を使って自動的に思い出せる仕組みにします。多くのCRMには、指定した日数が経つと担当者に通知する機能があります。人の記憶に頼らず、システム側から声をかけてもらう形にすることが、追客を続けるコツです。

原因2:一度連絡した後の「続き」が設計されていない

追客がうまくいかないもう一つの原因は、最初の連絡で終わってしまうことです。電話やメールを1回送って反応がないと、そこで対応が止まる会社は少なくありません。しかし、検討中の見込み客がすぐに返事をしないのは自然なことです。

引っ越し業者に見積もりを依頼した場面を思い浮かべてください。1社から見積もりが届いても、すぐには決めず、他社の見積もりを待つ人が多いはずです。その間、何の連絡もない業者より、適度に状況を確認してくれる業者の方が印象に残ります。BtoB(ビーツービー。会社が会社を相手に商品・サービスを販売する取引のことです)の問い合わせも同じで、複数回の接点があって初めて検討が進みます。

続きを設計するには、案件をいくつかの段階(ステージ)に分けて管理する方法が有効です。CRMの多くは、案件を「初回対応」「検討中」「見積もり提示」「クロージング(成約に向けた最終的な詰めの段階のことです)」のような段階で管理する機能を持っています。段階ごとに、次に何をするかをあらかじめ決めておけば、対応が止まりにくくなります。

解決策:CRMの案件ステージを使って追客フローを見直す手順

ここまでの原因を踏まえ、追客フローを見直す手順を整理します。

  1. 問い合わせの種類を分ける:資料請求、料金の相談、導入の相談など、内容ごとに分類する
  2. 種類ごとに段階(ステージ)を決める:初回対応から成約まで、案件が通る流れを4〜5段階程度で設計する
  3. 段階ごとの目安期間を決める:各段階に何日以上留まったら見直すべきか、目安を数字で決める
  4. CRMに通知ルールを設定する:目安期間を超えた案件を、担当者に自動で知らせる設定をする
  5. 止まっている案件を定期的に棚卸しする:週に1回程度、段階ごとの滞留(たいりゅう。同じ状態のまま長く止まっていることです)件数を確認する

このうち、多くの会社が省略しがちなのが3番目の「目安期間を数字で決める」ことです。感覚的に「長く止まっている気がする」ではなく、「検討中の段階に10日以上いたら見直す」のように数字で決めておくと、誰が見ても同じ基準で判断できます。

段階を細かくしすぎないことも大切

段階を設計するときは、細かくしすぎないよう注意します。段階が10個も20個もあると、どの案件が今どこにいるのか、担当者自身も入力を面倒に感じます。結果として、入力が形骸化し、CRMの情報が実態とずれていきます。最初は4〜5段階程度のシンプルな設計から始め、運用しながら必要に応じて調整することをおすすめします。

見直すときの注意点・よくある失敗

追客フローを見直す際、よくある失敗が2つあります。1つ目は、ツールの機能を使いこなすことが目的になってしまうことです。CRMには自動化やレポートなど多くの機能があります。しかし、機能を全部使おうとすると設定に時間がかかり、肝心の追客が後回しになります。まずは「止まっている案件が分かる」「担当者に通知が届く」という最低限の仕組みから始めれば十分です。

2つ目は、フローを決めた後、見直しをしないことです。段階ごとの目安期間や連絡方法は、実際の商談結果を見ながら調整が必要です。最初に決めたルールが常に正しいとは限りません。半年に一度など、決まったタイミングで振り返る機会を作っておくと、フローが形骸化しにくくなります。

まとめ

CRMを使った追客フローの見直しは、担当者の記憶や感覚に頼っていた追客を、誰が見ても同じ基準で進められる仕組みに変える取り組みです。要点を整理します。

課題 見直しの方向性
追客のタイミングが感覚任せ 種類ごとに連絡のタイミングと手段を数字で決める
最初の連絡で対応が止まる 案件を段階(ステージ)に分け、段階ごとの次の一手を決めておく
止まっている案件に気づけない CRMの通知機能と定期的な棚卸しで可視化する
段階を細かくしすぎて形骸化する 4〜5段階程度のシンプルな設計から始める
この記事に出てきた専門用語 かんたんな意味
追客 問い合わせをくれた相手に、その後も連絡を取り続けて契約につなげる営業活動
CRM 顧客情報や商談の進み具合を記録・管理する仕組み
見込み客 将来お客様になってくれるかもしれない人
BtoB 会社が会社を相手に商品・サービスを販売する取引
クロージング 成約に向けた最終的な詰めの段階
滞留 同じ状態のまま長く止まっていること

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