「HubSpotのプラン名と料金の仕組みが複雑で、結局いくらかかるのか分かりにくい」。HubSpotを使っている方から、そう聞くことがあります。2026年10月1日、HubSpotはヨーロッパ・中東・アフリカ(EMEA)地域の新規契約者向けに、新しい料金の仕組み「Seats and Credits(シート・アンド・クレジット)」を始めました。日本ではまだ始まっていませんが、AIの使用量に応じて費用が変わるという、これまでとは違う考え方の料金体系です。この記事では、何が変わるのか、中小企業が今どう構えればよいかを整理します。

HubSpotが新しく始めた料金の仕組みとは

HubSpotはこれまで、「Marketing Hub」「Sales Hub」「Service Hub」といった機能のまとまり(Hub)ごとに、Starter・Professional・Enterpriseという段階のプランを組み合わせて契約する仕組みでした。その組み合わせの数は73種類にもなっていたといわれています。選択肢が多い分、どのプランが自社に合うのか分かりにくいという声が出ていました。

今回始まった新しい仕組みでは、この73種類が23種類に整理されます。まず、アカウント全体で1つの「Edition(エディション。契約の等級という意味です)」をStarter・Professional・Enterpriseから選びます。異なるEditionを組み合わせることはできません。これは、同じ時期に発表された「Fall Spotlight」という大型アップデート(顧客データを自動で最新に保つ仕組みなど)とあわせて、HubSpot全体をシンプルな土台に乗せ直す動きの一部だと見られます。

「プラン」から「シートと使用量」へ。具体的に何が変わるのか

新しい仕組みでは、料金は大きく2つの要素で決まります。1つは「シート(Seat)」、つまり実際にHubSpotを操作する人数です。もう1つは「クレジット」で、メール配信・自動化・AIによる作業といった、使った分だけ消費される使用量の単位です。

シートにも2種類あります。基本的な操作ができる「Core Seat(コアシート)」と、Professional・Enterprise契約でのみ使える「Front Office Seat(フロントオフィスシート)」です。後者は、従来は営業・カスタマーサービス・収益管理それぞれで別に用意されていたシートを1つにまとめたものだといわれています。

クレジットは契約段階ごとに毎月の割り当てがあります。報道されている内容では、Starterで5,000クレジット、Professionalで10,000クレジット、Enterpriseで15,000クレジットが毎月付与されるとのことです。メールを1件自動生成する、ワークフロー(あらかじめ決めた条件で作業を自動実行する仕組み)の中でAIが1回判断する、といった動作のたびに、このクレジットが減っていく設計です。

AIを使うほど費用が動く。中小企業が気をつけたいポイント

この仕組みの一番の特徴は、AIの活用度合いが直接、月々の費用に影響することです。これまでのHubSpotは、契約するHubとプランの段階、それに連絡先(顧客データ)の件数で料金がほぼ決まっていました。今回の仕組みでは、そこに「どれだけAIや自動化を使ったか」という変動要素が加わります。

これは中小企業にとって、良い面と注意すべき面の両方があります。良い面は、AIをあまり使わない会社であれば、必要な分だけ払えばよいという合理性です。注意すべき面は、MA(マーケティングオートメーション。見込み客への対応を自動化する仕組みです)を積極的に活用し始めると、想定より早くクレジットを使い切ってしまう可能性があることです。クレジットが不足すれば追加購入が必要になり、結果として費用が読みにくくなります。

もう1つの注意点は、契約前に「自社がどれくらいAI機能を使う予定か」を見積もる必要が出てくることです。これは、従来のマーケティング予算の決め方に、新しい変数が加わることを意味します。人数(シート)だけでなく、使用量(クレジット)も予算計画に組み込む発想が必要になります。

他のツールにも広がっている「使った分だけ払う」という流れ

この動きは、HubSpotだけの特殊な事情ではありません。生成AIを提供する各社も、文章や画像を1回生成するたびに使用量を消費する課金方式を採っています。マーケティング・営業支援のソフトウェア業界全体が、AI機能の提供コストを「月額固定」から「使った分だけ」に切り替えつつあります。

そのため、HubSpot以外のツールを比較検討する際も、同じ視点が必要になります。「月額いくらか」だけでなく、「AI機能をどれだけ使うと追加費用が発生するか」を確認する習慣をつけておくと、どのツールを選ぶ場合でも役に立ちます。

日本の企業は、今何をすればいいのか

結論から言うと、今すぐ何かを変える必要はありません。今回の新料金体系は、現時点ではEMEA地域の新規契約者が対象で、既存の契約者はこれまでの料金のまま使い続けられるとされています。日本での開始時期も、2026年10月時点では明らかになっていません。

ただし、2つの点は意識しておく価値があります。1つは、HubSpotを含む主要なマーケティングツールが、全体として「使った分だけ払う」AI利用料の方向に進んでいるという潮流です。これはHubSpot1社の動きではなく、業界全体の傾向として捉えておくべきものです。もう1つは、将来、日本でも同様の仕組みに切り替わる可能性があるため、今のうちに自社のAI機能・自動化機能の利用実態を把握しておくと、切り替え時に慌てずに済むということです。

これから新規にHubSpotを契約する予定がある方は、契約時点でどちらの料金体系が適用されるのかを、必ず担当者や代理店に確認してください。インターネット上の情報は英語圏のEMEA向け内容が多く、日本での契約条件とは異なる場合があります。また、既存の契約者がいきなり新料金に移行させられることは、現時点の情報では想定されていません。焦って契約内容を変更する必要はなく、まずは導入時に整えておきたい初期設定と運用ルールを固めることの方が優先度は高いはずです。

今の時点でできることを整理すると、次の3つになります。1つ目は、自社がメール配信・自動化・AI機能をどの程度使っているか、今のうちに棚卸しをしておくことです。2つ目は、契約更新のタイミングで料金体系に変更がないか、担当者に確認する習慣をつけることです。3つ目は、HubSpot以外のツールを検討する際も、同じ「使用量課金」の視点を持っておくことです。

まとめ

HubSpotの新料金体系「Seats and Credits」は、プランの分かりやすさを高める一方で、AIの使用量が費用に直結する新しい考え方を持ち込むものです。日本での展開はまだ先ですが、方向性としては知っておく価値があります。

観点 ポイント
現在の対象 EMEA地域の新規契約者のみ(2026年10月1日開始)
既存契約者 これまでの料金体系のまま継続可能とされている
日本での開始 2026年10月時点で未発表
料金の構成 Edition(契約等級)+ Seat(人数)+ Credits(使用量)
今やるべきこと 自社のAI・自動化機能の利用実態を把握しておく

最後に、この記事に出てきた専門用語を整理します。

記事内の専門用語 意味
SKU 販売される商品・プランの管理上の単位のこと
Edition(エディション) 契約全体の等級(Starter・Professional・Enterpriseなど)
シート(Seat) HubSpotを実際に操作できる利用者1人分の権利
クレジット メール配信やAIの作業など、使った分だけ消費される使用量の単位
MA(マーケティングオートメーション) 見込み客への対応や作業を自動で行う仕組み
ワークフロー あらかじめ決めた条件で作業を自動実行する設定