「あの案件、担当のAさんに聞かないと分からない」。中小企業の経営者や営業責任者から、よくこの言葉を聞きます。営業の進め方が特定の個人の頭の中にしかない状態を、属人化(ぞくじんか。特定の担当者にしかやり方が分からず、他の人が代わりにできない状態のことです)と呼びます。この記事では、属人化した営業を仕組みに変える具体的な手順と、私自身がある事業で作業時間を週1時間程度まで減らしながら成果を維持した実体験を紹介します。
背景:なぜ営業は属人化しやすいのか
中小企業の営業は、創業期や事業拡大期には、特定の担当者の頑張りに支えられていることが多いものです。人手が足りない中で、目の前の商談をこなすことが最優先になります。マニュアルを整備する余裕は、後回しにされがちです。
この状態が続くと、いくつかの問題が起きます。まず、担当者が休んだり退職したりすると、その人が持っていたノウハウ(業務を進めるための知識やコツのことです)が一緒に失われます。引き継ぎのための時間もかかり、その間に対応が遅れる案件も出てきます。
さらに、担当者ごとにやり方が違うため、対応の質にばらつきが生まれます。ある担当者は丁寧に見積もりの背景を説明し、別の担当者は要点だけ伝えて終わります。お客様から見ると、同じ会社なのに対応の印象が違う、という状態です。
私自身、個人事業主として店舗の内装業者と発注者をつなぐビジネスマッチングサイトを運営していた時期があります。当初はすべての作業を自分一人でこなしており、問い合わせ対応から業者への取り次ぎまで、自分が動かなければ何も進みませんでした。これも典型的な属人化の状態でした。
原因:仕組み化が後回しになる3つの理由
属人化を解消する必要性は分かっていても、実際には後回しにされがちです。理由は主に3つあります。
1つ目は、日々の業務に追われて時間が取れないことです。 マニュアルを作る作業は、目の前の売上には直結しません。そのため、優先順位が下がりやすくなります。
2つ目は、やり方を言語化する作業自体が面倒に感じられることです。 頭の中で自然にできていることを、他の人が読んでも分かる形の文章にするのは、思った以上に手間がかかります。
3つ目は、「自分がやった方が早い」という感覚です。 特に営業が得意な経営者ほど、この感覚が強くなります。しかし、この感覚こそが、事業を個人の労働時間の限界に縛りつける原因になります。
私が運営していたマッチングサイトも、最初はこの3つ目の壁にぶつかりました。自分で対応した方が早いという感覚から、なかなか作業を手放せない時期がありました。
仕組み化の具体的な手順
属人化した営業を仕組みに変えるには、段階を踏んで進めることが大切です。いきなり全部を自動化しようとすると、途中で挫折しやすくなります。
手順1:今の営業の流れを書き出す
まず、問い合わせが来てから成約するまで、実際に何をしているかを書き出します。頭の中にある手順を、箇条書きでよいので紙やドキュメントに出すことが最初の一歩です。この段階では、良し悪しを判断せず、ありのままを書き出すことがポイントです。
手順2:誰でもできる作業と、判断が必要な作業に分ける
書き出した手順を、「決まった通りに進めれば誰でもできる作業」と、「その場の状況判断が必要な作業」に分けます。たとえば、資料の送付や日程調整は前者、価格交渉の落としどころを決めることは後者にあたります。
手順3:誰でもできる作業からマニュアル化・外注化する
判断の要らない作業から、マニュアル(手順書)に落とし込みます。マニュアルができれば、他のスタッフに任せたり、外部の業者に外注したりできるようになります。CRM(顧客管理システム。顧客情報や商談の進み具合を記録・管理する仕組みのことです)を使えば、進捗の記録もマニュアルの一部として仕組みに組み込めます。
手順4:判断が必要な作業も、基準を決めて標準化する
判断が必要な作業も、完全に属人的なままにする必要はありません。「この条件なら値引きは何パーセントまで」「この段階まで進んだら上長に確認する」のように、判断の基準を決めておけば、担当者が変わっても同じ水準の対応ができます。標準化(ひょうじゅんか。やり方をそろえて、誰がやっても同じ結果になるようにすることです)とは、この基準づくりのことです。
実体験:週1時間まで作業を減らせた仕組み化
私が運営していたビジネスマッチングサイトでは、無料で問い合わせを集める仕組みを作った上で、作業のマニュアル化と外注化を進めました。問い合わせの一次対応や業者への取り次ぎなど、手順が決まっている作業から順番に、外部のスタッフに任せられる形に落とし込んでいきました。
この結果、自分が直接動く時間を週1時間程度まで減らしながら、年間の成約金額として約4,500万円規模の取引を継続することができました。すべてを自分でこなしていた時期と比べると、大きな変化です。
ここで伝えたいのは、「誰でも同じようにできる」という意味ではありません。仕組み化には準備の時間がかかりますし、業種や商材によって、どこまで標準化できるかは変わります。それでも、「属人化したまま拡大は難しい」という感覚は、多くの中小企業に当てはまると考えています。
仕組み化を進める際の注意点
仕組み化を進める際、注意したい点が2つあります。
1つ目は、仕組み化とお客様対応の質は別問題だということです。マニュアル通りに進めることを優先しすぎると、お客様一人ひとりの状況に合わせた対応がおろそかになることがあります。仕組み化はあくまで、担当者が本来集中すべき判断業務に時間を使うための手段です。
2つ目は、一度作った仕組みを更新しないまま放置してしまうことです。商品やサービスの内容、お客様の傾向は時間とともに変わります。マニュアルや判断基準も、定期的に見直す前提で作っておくことをおすすめします。
まとめ
属人化した営業を仕組みに変える取り組みは、一度に完成させるものではなく、段階を踏んで少しずつ進めるものです。要点を整理します。
| 課題 | 仕組み化の方向性 |
|---|---|
| 営業のやり方が担当者の頭の中にしかない | 今の流れを書き出し、他の人が読める形にする |
| 判断の要らない作業まで担当者が抱え込んでいる | 誰でもできる作業からマニュアル化・外注化する |
| 判断が必要な作業も担当者ごとにばらつく | 判断の基準を決めて標準化する |
| 仕組みを作ったまま更新されない | 定期的に見直す前提で運用する |
| この記事に出てきた専門用語 | かんたんな意味 |
|---|---|
| 属人化 | 特定の担当者にしかやり方が分からず、他の人が代わりにできない状態 |
| ノウハウ | 業務を進めるための知識やコツ |
| CRM | 顧客情報や商談の進み具合を記録・管理する仕組み |
| 標準化 | やり方をそろえて、誰がやっても同じ結果になるようにすること |
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