「使えると思っていた補助金が、いつの間にか名前も内容も変わっていた」。補助金の相談を受けていると、こう戸惑う経営者の方によく出会います。実際に2026年度、中小企業向けの代表的な補助金だった「ものづくり補助金」と「新事業進出補助金」が統合されました。新制度「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」の第1回公募は、2026年9月30日に申請受付が始まり、10月30日18時に締め切られます。ホームページ制作費や広告費は対象になるのか、申請前に知っておきたい注意点を整理します。

「ものづくり補助金」と「新事業進出補助金」が一つになった

中小企業庁は、長年続いてきた「ものづくり補助金」と、2025年に新設された「新事業進出補助金」を統合し、2026年度から「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」という新しい制度を始めました。中小企業庁の公式サイトでは、第1回公募の申請受付を2026年9月30日に開始したと案内されています。締切は10月30日18時です。

この補助金は、設備投資や新製品・新サービスの開発にかかる費用の一部を国が補助する制度です。これまでは「ものづくり補助金」で設備投資を、「新事業進出補助金」で新しい事業分野への進出を、それぞれ別の制度として申請する必要がありました。統合後は一つの制度の中に、目的の異なる3つの申請枠が用意される形になっています。

3つの枠は、革新的な新製品・新サービスの開発を支援する枠、既存事業とは異なる新しい事業分野への進出を支援する「新事業進出枠」、海外展開を支援するグローバル枠です。このうち、ホームページ制作や広告運用といったマーケティング投資と関わりが深いのは、新事業進出枠です。次の見出しで、この枠が何に使えるのかを見ていきます。

新事業進出枠は、広告費・サイト制作費にどこまで使えるのか

新事業進出枠は、今の会社が手がけていない新しい事業に進み出るための投資を支援する枠です。対象経費には、建物費や機械装置費のほか、広告宣伝費やウェブサイト構築費が含まれると案内されています。「補助金で広告費やサイト制作費がまかなえる」と聞くと、心強く感じる経営者の方も多いはずです。

ただし、対象になる広告には条件があります。補助対象になるのは、あくまで補助事業(採択された新規事業の計画)に直接紐づく広告宣伝・販売促進の費用です。会社全体のブランディング広告や、既存事業の販促費は対象外とされています。さらに、広告宣伝・販売促進費には、事業計画期間1年あたりの売上高見込み額(税抜き)の5%という上限も設けられています。

ウェブサイト構築費も同様に、補助事業で提供する新しい製品・サービスのPRに使うサイトが対象です。会社案内サイト全体のリニューアルのような費用は想定されていません。また、100万円(税抜き)以上のウェブサイト構築費を計上する場合は、実績報告の際に、どのような作業にどれだけの時間と単価がかかったかを示す見積根拠の提出が求められると案内されています。見積書を1枚もらうだけでは済まない、という点は覚えておく必要があります。

申請のハードル。補助額の下限と、賃上げの約束

新事業進出枠には、補助額の下限が750万円程度と案内されています。つまり、数十万円〜百万円程度の小さな広告出稿やサイト改修だけを目的に、この枠を単体で使うことは想定されていません。もっと大きな、新しい事業への進出計画全体の一部として広告費・サイト制作費を組み込む、という使い方になります。

もう一つの大きなハードルが、賃上げに関する要件です。補助事業が終わったあと、3〜5年程度の期間内に、従業員一人あたりの給与総額を年平均3.5%以上増やす計画を立てることが求められると報告されています。達成できなかった場合は、補助金の一部返還を求められる可能性があるとされています。

賃上げ要件とは、簡単に言うと「補助金を受け取る代わりに、その後の数年間で社員の給与を一定以上増やす」という約束を、申請の段階でする仕組みです。補助率も、中小企業で1/2、一定の条件を満たす場合や小規模事業者で2/3など、企業規模や賃上げの内容によって変わります。金額や要件の詳細は公募回・企業規模によって異なるため、実際に申請する際は中小企業庁や中小企業基盤整備機構が公開する最新の公募要領を必ず確認してください。

事業計画そのものにも条件があると報告されています。補助事業終了後の3〜5年間で、付加価値額(売上から外部への支払いを差し引いた、会社が新たに生み出した価値のことです)の年平均成長率4.0%以上を目指す計画にすることが求められます。賃上げの年平均3.5%以上という目標と合わせて、2つの数値目標を事業計画に盛り込む必要がある、という点は見落としやすいポイントです。

申請前の準備にも日数がかかります。電子申請にはGビズID(ジー・ビズ・アイディー。国の複数の行政サービスに、一つのIDでログインできる法人・個人事業主向けの共通アカウントのことです)のうち「プライム」というアカウントが必須で、取得には1週間程度かかると案内されています。さらに、一定規模以上の事業者では「一般事業主行動計画」という、従業員の働き方や女性活躍に関する計画の策定・公表が必要になる場合があり、この公表の手続きにも1〜2週間程度かかると報告されています。10月30日の締切から逆算すると、計画の内容を練る前に、まずこうした事前準備だけでも着手しておく必要があります。

よくある誤解。「広告費に使える」が、普段の販促まで含むわけではない

この補助金について、「広告費に使える制度ができたなら、普段のホームページ運用や広告出稿もまかなえるはずだ」と誤解されることがあります。しかし先ほど触れたとおり、対象になるのは採択された新規事業の計画に直接紐づく広告・サイトに限られます。既存事業の集客のために使っている広告費やサイトの運用費には使えません。

私は現在、行政書士と提携して補助金の申請支援も行っています。その中でよく相談を受けるのが、まさにこの「どこまでが補助事業の広告で、どこからが会社全体のPRなのか」という経費区分の切り分けです。新しい事業の広告と、会社全体のブランディングが混ざった広告を作ってしまうと、実績報告の段階で対象経費として認められない部分が出てきます。計画段階で、新しい事業のためだけの広告・サイトという立て付けを明確にしておくことが、あとで苦労しないためのポイントです。

また、補助金は基本的に後払いの仕組みです。採択されても、費用はいったん自己負担で立て替え、事業を実施した後の実績報告を経て支給されます。資金繰りの計画は、採択される前から立てておく必要があります。

まとめ

新事業進出・ものづくり商業サービス補助金は、第1回の締切まで残り1か月を切っています。新しい事業分野への進出を検討している場合は、広告費やサイト制作費を含めた計画づくりを急ぐ価値があります。ホームページや広告の活用を含めた事業計画の相談は、無料相談でも承っています。

項目 内容
制度名 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金(「ものづくり補助金」と「新事業進出補助金」を統合、2026年度新設)
第1回公募スケジュール 2026年9月30日 申請受付開始/10月30日18時 締切(出典:中小企業庁公式サイト)
広告費・サイト制作費 新事業進出枠で対象。ただし補助事業に直接紐づくものに限る。広告・販促費は売上高見込みの5%が上限
主な注意点 補助額の下限750万円程度/賃上げ要件(3〜5年で給与総額を年平均3.5%以上増やす計画)/補助金は後払い
記事内の専門用語 意味
新事業進出枠 既存事業とは異なる新しい事業分野への進出を支援する、この補助金の申請枠の一つ
公募要領 申請の対象・条件・スケジュールなどを定めた公式の案内文書
実績報告 補助事業を実施した後、使った費用の内容や成果を報告する手続き
賃上げ要件 補助金を受けたあと、一定期間内に従業員の給与水準を引き上げる約束をする条件
付加価値額 売上から外部への支払いを差し引いた、会社が新たに生み出した価値を示す指標
GビズID(プライム) 国の複数の行政サービスに共通で使える法人・個人事業主向けのアカウント
一般事業主行動計画 従業員の働き方や女性活躍に関する取り組みを定め、公表する計画