「問い合わせ数は去年より増えたのに、受注はむしろ減っている気がする」。広告やSEOに力を入れている経営者から、こうした相談を受けることがあります。原因の多くは、追いかけているKPI(ケーピーアイ。重要業績評価指標の略で、目標達成の度合いを測るために決めた数字のことです)が、問い合わせ数という入り口の指標だけで止まっていることです。この記事では、問い合わせの先にある指標をどう設計するか、順を追って整理します。
背景:問い合わせ数は「結果」ではなく「通過点」
広告代理店やSEO会社の多くは、月間の問い合わせ数や資料請求数を成果として報告してきます。これ自体は間違いではありません。しかし、問い合わせ数はあくまで営業活動の入り口にすぎません。そこから先に、商談、見積もり、受注という段階が続きます。
問い合わせ数だけをKPIにすると、数は増えても中身の薄い問い合わせが混ざりやすくなります。例えば、広告の出し方を変えて「とりあえず資料が欲しい」という軽い問い合わせを増やせば、見かけ上の数字は伸びます。しかし、営業担当がそれぞれに時間をかけても、商談につながらないまま終わることが増えます。
この状態を防ぐには、問い合わせ数の先にある段階ごとに、もう一段細かい指標を置く必要があります。これをマーケティングの世界では「ファネル(じょうご、という意味の英語です。見込み客が認知から受注まで進むにつれて人数が絞られていく様子を、口の広いじょうごの形にたとえています)」ごとのKPI設計と呼びます。入り口の数だけでなく、通過率を段階ごとに見る発想です。
私自身、会社員時代にプロジェクトの品質管理標準を作る仕事を担当したことがあります。当初は不具合の件数だけを追いかけていましたが、それでは原因が分かりませんでした。工程ごとに検査基準を分けて記録するようにしたところ、実施から1年後には不具合の発生率が目に見えて下がりました。数字は、分解して初めて次の行動につながります。
ファネルを段階に分けて指標を置く
BtoB(ビーツービー。企業が企業を相手に商品やサービスを売る取引のことです。個人向けの取引であるBtoCと区別して使われます)マーケティングのファネルは、おおむね次の4段階に分けられます。段階ごとに、何を測るかを決めておくと、どこで見込み客が離れているかが見えてきます。
- 認知・興味段階:広告やSEOでサイトに来た人の数、サイトの滞在時間
- 検討段階:問い合わせ数、資料ダウンロード数、メルマガ登録数
- 商談段階:商談化率(問い合わせのうち実際に商談まで進んだ割合)、提案に進んだ件数
- 受注段階:受注率(商談のうち契約に至った割合)、受注までの平均日数
この段階分けをすると、「問い合わせは増えたが商談化率が下がっている」のか、「商談化率は変わらないが受注率が下がっている」のかを切り分けられます。原因が分かれば、広告の訴求を見直すのか、営業トークを見直すのか、打ち手も自然と絞られます。
段階ごとの見込み客を区別するために、MQL(エムキューエル。Marketing Qualified Leadの略で、マーケティング活動から見て有望と判断した見込み客のことです)とSQL(エスキューエル。Sales Qualified Leadの略で、営業がヒアリングした結果、商談を進める価値があると判断した見込み客のことです)という呼び方を使う会社もあります。呼び方自体は重要ではありませんが、「マーケティングが渡す基準」と「営業が受け取る基準」を分けて考える発想は参考になります。見込み客の絞り込み方については、リードクオリフィケーションの考え方で基準づくりの具体例を整理しています。
具体的な指標の決め方と計測の手順
段階ごとのKPIを決めるときは、いきなり理想の数字を置くのではなく、まず現状の数字を正しく把握することから始めます。手順はおおむね次の通りです。
- 過去3〜6ヶ月分の実績を段階ごとに集計する:問い合わせ数、商談化率、受注率を月ごとに並べる
- 各段階の通過率(CVR。コンバージョン率の略で、ある段階から次の段階に進んだ割合のことです)を計算する:どこで最も人数が減っているかを確認する
- 通過率が低い段階に絞って原因を調べる:広告の訴求、フォームの使いやすさ、営業の初動対応など、段階に応じた原因を疑う
- 改善策を実行し、翌月以降の数字と比較する:一度の施策で判断せず、数ヶ月の推移で見る
集計の土台には、GA4(ジーエーフォー。Googleが提供する無料のアクセス解析ツールです)とCRM(顧客管理システム)のデータを組み合わせるのが現実的です。GA4では問い合わせ数や流入経路が分かり、CRMでは商談化率や受注率が分かります。両方を別々に見ていると、「広告経由の問い合わせは多いが受注にはつながっていない」といった流入経路ごとの差に気づきにくくなります。GA4の基本的な見方はGA4の見方|中小企業が最初に見るべき指標3つで解説しています。
あわせて読みたい:CRMで追客フローを見直す方法|属人化をなくす手順
CRM側の数字が営業担当の記憶や個人のメモに頼ったままだと、商談化率や受注率を正確に出すこと自体が難しくなります。案件のステージ(見込み・商談中・受注・失注など)を全員が同じルールで記録する仕組みが、KPI設計の前提として欠かせません。
注意点:指標を増やしすぎない、目先の数字に振り回されない
KPIを段階ごとに分けると考えると、つい指標を増やしすぎてしまう会社があります。しかし、毎月十数個の数字を追いかけても、結局どれも深く見ないまま終わりがちです。まずは各段階の指標を1つずつ、合計4〜5個程度に絞ることをおすすめします。
もう一つの注意点は、1ヶ月単位の数字の上下に一喜一憂しないことです。BtoBの商談は、検討から受注まで数ヶ月かかることが珍しくありません。今月の受注率の低下が、2ヶ月前の問い合わせの質によるものという場合もあります。段階ごとの指標は、最低でも四半期単位で傾向を見る前提で設計してください。
また、KPIはあくまで現状を把握し、打ち手を決めるための道具です。数字を良く見せること自体が目的にならないよう、常に「この数字が良くなると、実際の受注にどうつながるか」を関係者全員で確認しておくことが大切です。
まとめ
問い合わせ数だけを追いかけていると、数は増えても受注が伸びない状態に気づきにくくなります。認知・検討・商談・受注という段階ごとに指標を分け、段階間の通過率を確認することで、どこに手を打つべきかが具体的に見えてきます。
| 段階 | 主な指標 |
|---|---|
| 認知・興味 | サイト訪問数、滞在時間 |
| 検討 | 問い合わせ数、資料ダウンロード数 |
| 商談 | 商談化率、提案件数 |
| 受注 | 受注率、受注までの平均日数 |
弊社の「半年で売上・問い合わせを2倍に 成果報酬プログラム」でも、問い合わせ数とWeb経由の売上のどちらを指標にするかを契約時に選んでいただいています。どちらを選ぶにせよ、その先の商談化率や受注率まで見える体制を整えておくことが、半年という期間で成果を出すための土台になります。
| 記事内の専門用語 | 意味 |
|---|---|
| KPI | 重要業績評価指標の略。目標達成の度合いを測るために決めた数字 |
| ファネル | じょうごの形にたとえた、見込み客が認知から受注まで絞られていく過程 |
| BtoB | 企業が企業を相手に商品やサービスを売る取引 |
| MQL | マーケティング活動から見て有望と判断した見込み客 |
| SQL | 営業がヒアリングした結果、商談を進める価値があると判断した見込み客 |
| CVR | コンバージョン率の略。ある段階から次の段階に進んだ割合 |
| GA4 | Googleが提供する無料のアクセス解析ツール |
| CRM | 顧客情報や商談の進み具合を記録・管理する仕組み |
