「ホームページに資料をたくさん載せているのに、なぜ商談に進まないのか分からない」。こうした相談をよく受けます。原因の一つは、顧客が検討を進める「段階」に合わせて情報を用意できていないことです。本記事では、BtoB(企業同士の取引)の顧客が初めて会社を知ってから契約するまでの道筋を可視化する「カスタマージャーニーマップ」の作り方を、専門用語を一つずつ説明しながら整理します。
検討に時間がかかるBtoBだからこそ起きる「情報のズレ」
BtoBの購買は、個人が日用品を買うときとは事情が違います。検討期間が数週間から数ヶ月に及ぶことが多く、しかも決裁者・現場担当者・情報システム部門など複数の人が関わります。だからこそ、顧客が「今どの段階にいるか」を意識せずに情報を発信すると、相手に刺さらなくなります。
ここで整理したいのが「カスタマージャーニー」という言葉です。これは、顧客が会社を知ってから契約するまでに通る道筋のことです。その道筋を一枚の図にまとめたものを「カスタマージャーニーマップ」と呼びます。認知・情報収集・比較検討・社内稟議・契約という段階ごとに、顧客が何を考え、どんな情報を探しているかを書き出していきます。
多くの会社は、この地図を作らずに情報発信をしています。たとえば、初めて会社名を知った人にも、契約直前の人にも、同じ会社案内資料を送ってしまう。その結果、初めて知った人には情報が多すぎて離脱され、契約直前の人には決め手となる情報が足りず止まってしまいます。この土台には、想定する顧客像(ペルソナ)が部署ごとにズレていないことが前提になります。ペルソナが曖昧だと、ジャーニーマップも的外れなものになってしまいます。
個人向けの買い物であれば、検討から購入までが数分から数日で終わることも多いです。一方、BtoBでは検討開始から契約まで数ヶ月かかることが珍しくありません。その間に担当者が転勤・異動することもあり、引き継ぎで検討が止まってしまうケースすらあります。だからこそ、どの段階の誰に向けて情報を出しているかを、会社として共有しておく必要があるのです。
カスタマージャーニーマップの作り方:4つのステップ
実際に作る手順は、それほど複雑ではありません。中小企業でも無理なく作れる4つのステップに分けて説明します。
ステップ1 検討の段階を4〜5つに分ける
まず、顧客が通る段階を書き出します。典型的には「認知(会社を知る)」「情報収集(課題を調べる)」「比較検討(複数社を比べる)」「社内検討(稟議を通す)」「契約・導入」の5段階です。業種によって段階の数や名前は変わってかまいません。大切なのは、顧客視点で「今どんな気持ちでいるか」を言葉にすることです。
ステップ2 各段階での「疑問」と「不安」を書き出す
次に、それぞれの段階で顧客が抱く疑問や不安を書き出します。たとえば比較検討の段階では「他社と比べて何が違うのか」「導入にどれくらい時間がかかるのか」という疑問が出やすいです。社内検討の段階では「上司にどう説明すればいいか」という不安が強くなります。この不安を解消する資料として、稟議を通すための費用対効果シミュレーション資料を用意しておくと、担当者が社内で説明しやすくなります。
ステップ3 各段階で接するタッチポイントを洗い出す
「タッチポイント」とは、顧客が会社と接する場所や瞬間のことです。広告、検索結果、ホームページ、問い合わせフォーム、営業担当者との電話など、段階ごとに顧客が触れる場所を書き出します。段階とタッチポイントを並べると、「どの段階で、どのタッチポイントに、どんな情報を置くべきか」が見えてきます。
書き出す際は、特別なツールは必要ありません。表計算ソフトに「段階」を縦の列、「疑問・不安」「タッチポイント」「用意する情報」を横の列として並べるだけで十分です。完成した表は、営業会議やマーケティング会議で定期的に見返す資料として活用できます。
ステップ4 抜け漏れている情報・資料を補う
最後に、段階とタッチポイントの表を見渡して、情報が足りない場所を探します。比較検討の段階で事例が足りない、社内検討の段階で稟議資料が無い、といった抜け漏れが見つかることがほとんどです。見つかった抜け漏れから優先順位をつけて、資料やページを補っていきます。
段階ごとの情報設計で意識したいこと
ジャーニーマップができたら、各段階にふさわしい情報の形式を考えます。認知の段階では、課題への気づきを与える読み物形式のコンテンツが向いています。比較検討の段階では、事例インタビュー記事のように、似た業種・規模の会社がどう課題を解決したかを具体的に示す情報が効果を発揮します。
契約に近づく段階では、問い合わせや資料請求のあと、担当者がどう顧客に対応するかも重要です。せっかく良いタイミングで問い合わせが来ても、対応がバラバラだと機会を失います。CRM(顧客管理システム)を使った追客の仕組みを整えておくと、ジャーニーマップに沿った対応を仕組みとして回せるようになります。
私自身、以前ホームページ制作の仕事をしていたとき、相談者が最初に気にすることと、契約直前に気にすることが明らかに違うと感じた経験があります。最初は「本当にこの会社に頼んで大丈夫か」という不安が強く、契約直前になると「具体的にいつから、何をしてもらえるのか」という実務的な質問に変わっていきます。この変化に気づかずに、同じ説明を繰り返していた時期は、商談がなかなか前に進みませんでした。
よくある失敗と注意点
カスタマージャーニーマップを作る際、いくつかの失敗がよく起こります。一つは、最初から完璧な地図を作ろうとして時間をかけすぎることです。最初は手書きの簡単な表で構いません。社内の営業担当者に「普段お客様からどんな質問が多いか」を聞くだけでも、十分に実用的な地図ができます。
もう一つの失敗は、地図を作ったあとに更新しないことです。市場や競合の状況は変わりますし、顧客の疑問も時間とともに変わります。半年に一度くらいのペースで、営業担当者に「最近よく聞かれる質問」を聞き直し、地図を見直すとよいでしょう。
最後に、マーケティング担当者だけで地図を作って終わらせてしまう失敗もあります。実際に顧客と接しているのは営業担当者やカスタマーサポートです。彼らの実感を取り入れずに作った地図は、現場の感覚とズレたものになりがちです。
地図を作ったあとは、必ず一度は実際の問い合わせ内容と見比べてみてください。想定していなかった疑問が多く来ている段階があれば、そこが地図の見直しポイントです。仮説を立てて終わりにせず、実際のデータで検証する姿勢が欠かせません。
まとめ
BtoBのカスタマージャーニーマップは、顧客が検討を進める段階ごとに、疑問・不安・接点・必要な情報を整理する地図です。作成の手順を簡単に整理すると、次のようになります。
| ステップ | やること |
|---|---|
| 1 | 検討の段階を4〜5つに分ける |
| 2 | 各段階の疑問・不安を書き出す |
| 3 | 各段階のタッチポイントを洗い出す |
| 4 | 抜け漏れている情報・資料を補う |
最初から完璧を目指さず、営業担当者の実感を取り入れながら、半年ごとに見直していくことをおすすめします。
この記事に出てきた専門用語と意味を以下にまとめます。
| 記事内の専門用語 | 意味 |
|---|---|
| カスタマージャーニー(マップ) | 顧客が会社を知ってから契約するまでに通る道筋を一枚の図にしたもの |
| タッチポイント | 顧客が会社と接する場所・瞬間(広告・サイト・問い合わせフォーム・営業担当者など) |
| 稟議(りんぎ) | 社内の複数の人の承認を得て決裁を進める手続き |
| CRM | 顧客との関係ややり取りの履歴を記録・管理するシステム |
なお、こうした仕組みづくりを一人で進めるのが難しい場合は、無料相談でご相談いただくことも可能です。
