「このお客様像、営業部と制作チームで思い描いている人が違いますよね」。そう指摘すると、驚かれることがあります。同じ会社の中でも、部署ごとに「想定する顧客」がずれていることは珍しくありません。この記事では、BtoB(ビーツービー。会社が会社を相手に商品・サービスを販売する取引のことです)のバイヤーペルソナ(購買者像。商品やサービスを検討・購入する顧客を具体的な人物として描いたモデルのことです)の作り方と、中小企業でも無理なく運用する方法を整理します。
背景:なぜ「顧客像のズレ」が社内で起きるのか
営業担当者は、商談の相手である決裁者(けっさいしゃ。最終的に契約するかどうかを決める権限を持つ人のことです)を思い浮かべながら話します。一方、制作チームは、Webサイトを訪れる現場の担当者を思い浮かべながら記事やLP(ランディングページ。広告や検索から来た人が最初に訪れる、問い合わせや申し込みを目的とした1枚のページのことです)を作ります。両者が別々の人物像を前提にしていれば、会社として一貫したメッセージを出すことは難しくなります。
このズレは、顧客像を言葉や資料にして共有していないことが原因です。頭の中にある「こんな人が顧客だろう」というイメージは、本人にとっては明確でも、他の人には伝わりません。営業担当者が3年の経験から積み上げた顧客像と、制作チームが想像だけで作った顧客像では、精度にも大きな差が出ます。
バイヤーペルソナとは、この頭の中のイメージを、具体的な人物として書き出したものです。年齢や役職といった表面的な属性だけでなく、抱えている悩みや、情報を探すときの行動まで書き込みます。これを社内で共有できる形にすることで、部署をまたいだズレを防ぎます。
原因1:ペルソナを作らずに「何となく」で営業・コンテンツを作っている
多くの中小企業では、ペルソナという言葉を知っていても、実際に文書として作ったことがない会社が大半です。代わりに、営業担当者それぞれの経験に基づいた、暗黙の顧客イメージで動いています。これは一見効率的に見えますが、担当者が変わるたびに顧客像がリセットされてしまう弱点があります。
コンテンツの企画を検索意図(けんさくいい。検索する人がその言葉で何を知りたいのかという、言葉の裏にある目的のことです)だけで決めている会社も、同じ問題を抱えています。検索意図は「どんな言葉で探しているか」を教えてくれますが、「なぜ探しているのか」「探している人がどんな立場の人なのか」までは教えてくれません。ペルソナという土台がないまま企画を進めると、記事の切り口がその場しのぎになりがちです。
引っ越し業者を比較する場面を思い浮かべてください。単身の学生と、家族4人で荷物の多い引っ越しをする世帯主では、見積もりで気にする項目がまったく違います。業者側が「引っ越しする人」というひとくくりの顧客像しか持っていなければ、どちらにも刺さらない案内になってしまいます。BtoBの商談でも、これと同じことが起きています。
原因2:部署ごとに「見ている顧客」が違う
営業担当者は商談の経験から、制作チームはアクセス解析の数字から、カスタマーサポートは問い合わせの内容から、それぞれ別の情報源をもとに顧客像を思い描いています。役職や企業規模によって担当者の関心が違うという話は以前の記事でも触れましたが、これに輪をかけて、社内の部署ごとに見ている顧客自体が違うという問題もあります。
私自身、2011年から運営していた店舗内装のビジネスマッチングサイト(b-naisou.com)で、この違いを実感した経験があります。当初は美容室の内装に特化していましたが、後にカフェや店舗内装全体へと対象を広げました。その過程で、美容室の経営者が内装業者を探す動機と、カフェの経営者が探す動機は、同じ「店舗を持つ経営者」という括りでは説明できないほど違うことに気づきました。顧客像を一枚岩で捉えると、見落としが生まれやすくなります。
この問題を放置すると、営業資料と制作記事で使う言葉がずれ続けます。営業が「コストを抑えたい経営者」を想定して話す一方、記事は「効率化したい現場担当者」を想定して書かれていれば、同じ会社の広告なのに矛盾した印象を与えてしまいます。
解決策:社内で共有できるバイヤーペルソナの作り方
バイヤーペルソナは、架空の人物を完璧に描き切る必要はありません。中小企業であれば、以下の4つの手順で、実用に足りる程度のペルソナが作れます。
手順1:既存の顧客データと商談記録を洗い出す
まず、既存の顧客や、過去に商談した相手の情報を集めます。役職、企業規模、業種に加えて、問い合わせ前にどんな悩みを抱えていたかを、営業担当者やカスタマーサポートから聞き取ります。想像で作るのではなく、実在した顧客の共通点を探すことが出発点です。
手順2:営業・制作・サポートの担当者を集めて共通認識を作る
部署ごとに別々のペルソナを作るのではなく、関係者を集めて一緒に作ります。営業とマーケティングの認識がずれていると、ペルソナを作っても現場で使われません。全員が同じ会議で、同じ顧客像に合意する過程そのものに価値があります。
手順3:1〜3人分の人物像にまとめる
洗い出した情報を、1人から3人程度の具体的な人物像にまとめます。名前、役職、企業規模、抱えている悩み、情報収集の方法までを1枚の資料に書き出します。人数を増やしすぎると、結局「何となく」の状態に戻ってしまうため、まずは少ない人数に絞ります。
手順4:資料として共有し、定期的に見直す
完成したペルソナは、営業トークのスクリプトや、記事を書く前のチェックリストとして使えるよう、社内で共有できる場所に置きます。一度作って終わりにせず、半年に一度程度、実際の顧客と合っているかを見直す機会を設けます。市場や商品が変われば、顧客像も変わります。
実践時の注意点・よくある失敗
ペルソナ作りでよくある失敗は、属性情報だけを並べて終わらせてしまうことです。「40代、製造業、従業員50人」という情報だけでは、どんな言葉で営業すればいいかまでは見えてきません。属性に加えて、その人が普段どんな悩みを口にするかまで書き込む必要があります。
もう一つの失敗は、一度作ったペルソナを更新しないことです。作成した当時は正確でも、商品やサービスの内容が変わり、顧客層が広がっていけば、ペルソナは実態と合わなくなります。社内の誰も見返さない資料になってしまえば、作った時間が無駄になります。
まとめ
バイヤーペルソナは、部署をまたいだ顧客像のズレを防ぐための共通言語です。要点を整理します。
| 課題 | 見直しの方向性 |
|---|---|
| 部署ごとに想定する顧客が違う | 営業・制作・サポートを集めて一緒にペルソナを作る |
| ペルソナを「何となく」のイメージで済ませている | 実在した顧客の商談記録・問い合わせ内容から作る |
| 属性情報しか書かれていない | 抱えている悩みや情報収集の方法まで書き込む |
| 作ったまま更新していない | 半年に一度程度、実態と合っているか見直す |
| 記事内の専門用語 | 意味 |
|---|---|
| BtoB | 会社が会社を相手に商品・サービスを販売する取引 |
| バイヤーペルソナ | 商品やサービスを検討・購入する顧客を具体的な人物として描いたモデル |
| 決裁者 | 最終的に契約するかどうかを決める権限を持つ人 |
| LP(ランディングページ) | 広告や検索から来た人が最初に訪れる、問い合わせや申し込みを目的とした1枚のページ |
| 検索意図 | 検索する人がその言葉で何を知りたいのかという、言葉の裏にある目的 |
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